オペラは舞台芸術の一形態としてヨーロッパ文化の重要かつ不可欠な講成要素をなし、また日本でも近年、影響力を増しつつあるものの、日本の学術界においてオペラ(特にそのメインストリームをなすイタリア・オペラ)は依然として認知度が低く、オペラを対象とする研究はそれほど進展していない。本研究はそうした現状に一石を投じるべく、オベラの代表的作曲家の一人でありながら、それにふさわしい学術的な取り組みがなされてこなかったヴェルディへの本格的なアプローチを目指し、「イタリア」と「ドイツ」の関係性という視点を導入して、これまで3年にわたるヴェルディ・オペラの再考作業を試みてきた。その目的ために、これまで国内外において、英語・ドイツ語・イタリア語で書かれた広範囲にわたる文献・資料、および上演舞台を記録した映像資料の収集、専門研究者との研究交流などを継続的に行ってきた。特に最終年度に当たるこの1年間は、それらの資料の解読・分析作業に集中的に取り組み、ヴェルディの全オペラ作品とそれらに通底するいくつかの問題点に関し、各国の先行研究の最新成果を踏まえたデータベースの構築を大きく進めてきた。そしてその土台の上に立ち、これまで推進してきた課題研究自体の論点をさらに、(1)ヴェルディとドイツ文学・演劇、特にシラー劇をもとにした4作品と原作の間に生じた「距離」の意味、(2)ヴェルディとドイツ音楽の影響関係、特にヴァーグナーに対するヴェルディの心理的な揺れとそれが創作過程に及ぼした影響、(3)ドイツにおけるヴェルディ・オペラ受容、特に最大の「受容国」ドイツを手がかりとするヴェルディ・オペラの意義の再検討、の3項目に整理し、それぞれの考察を深化させてきた。本年度すでに執筆したいくつかの論考にもその成果はそれなりに反映されているが、今後早い段階で、テーマにより直結する成果を、論文等の形で発表していきたい。
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