本研究は、ラファエル前派の絵画作品とゴシック・リヴァイヴァルのデザインの双方に、中世を理想化するにいたった19世紀イギリスの時代精神の表出を確認し、ヴィクトリア朝ゴシックの隆盛期において建築、絵画、デザインの芸術諸分野が如何に相互作用的に影響しあい、総合的展開を果たしたかを検討することを目的としている。平成22年度は特に、ヴィクトリア朝期イギリスの芸術諸運動における中世を理想視する傾向が、中世芸術の単なる視覚的、形態的特徴に対する美的関心ではなく、中世の諸芸術作品を生みだした無名の芸術家たちの信仰告白的営みに対する精神的共鳴を重大な原動力としていた点を指摘した。具体的には、建築家のA・W・N・ピュージンやG・E・ストリート、19世紀イギリスのキリスト教美術の発展に多大な影響を与えた画家たちの集団ナザレ派らが提唱した擬似修道院的芸術創作活動、さらにはラファエル前派のW・H・ハントならびに同派第二世代のE・バーン=ジョーンズらのキリスト教的主題画に注目し、彼らが芸術家個人の名声や富の獲得を芸術創作活動の動機とする近代的傾向を否定し、芸術を人間の現世的欲求から切り離されたキリスト教信仰の表明行為として位置付けていたことを論じた。 平成22年度に検討した内容は、9月にベルギーのブリュッセルにおいて開催された第7回デザイン史デザイン学国際会議(7th Conference of the International Committee of Design History and Design Studies)におして、"Semi-Monastic Life and the Revival of Medieval-Gothic Designs : Artistic Creativity as a Confession of Faith"と題して発表した他、論文「主題としての<憐れみ>と<キリストの贖罪>-ウィリアム・ホルマン・ハントとエドワード・バーン=ジョーンズ」にまとめた。
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