平成22-23年度においては、デジタル映像作品における「可視化」と「可視性」という問題系の観点から、理論的調査と実地調査をおこなった。 理論的には、ニューメディア研究や現代哲学を中心に関連する理論的言説を調査し整理することを通して、デジタル映像の表現の力能をめぐっては「可視性」をめぐる概念分析が改めて必要とされてきていることをあきらかにした。 実地調査では、映像を用いた作品を展示する国内外の美術館・博物館、デジタル映像を用いた表現作品(メディア・アートなど)を、作品を支える展示形態(物理的支持体やセッティング、解釈的枠組み)との連動の関係について調べた。とりわけ、デジタル映像を用いてこれまで見ることのできなかったものを可視化する可能性を探る「ヴィジュアリゼーション」という名称で近年注目を集める分野での動向を調べ、「可視化」という概念で具体的には何が目指されているのかについて焦点をあてながら考察をおこなった。 また、関連する文献等を調査しながら、さまざまの可視化の試みを支える具体的な実践的条件について考察した。さらには、こうした「可視化」という概念の考察には、そもそも「可視性」という概念の検討が必要であるという認識にいたった。 これらを通して、媒体の力を固定化された固有の表現力ではなく複数の特性を混在させるものとして位置づけ直す問題提起をおこなう論文「トランス-メディア・エステティック」、『思想』4月号所収、岩波書店、2011年)を発表した。
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