本年度は、昨年度までの調査研究の成果をふまえ、デジタル映像を用いた作品群、とりわけ先端的なものして評価されることの多い作品群を中心に、可視性の多層的な形式についての考察をおこなった。とくに、展示の既存形態に対して批判性をもった新たな作品形式という問題設定をおこない、調査をすすめた。 そうした考察のために、まず、理論的準備として、次のような二点を中心に考察を踏まえ実地調査を踏まえることが理論的な準備として整理された。すなわち、1)映像を用いた作品に関わる、視覚経験の水準だけでないより広い観点からの鑑賞経験の分析、2)鑑賞経験に関する歴史的なスパンを踏まえた鑑賞経験の形態の考察、である。 これをふまえ、先端的とされる作品群の実地調査および理論的文献の収集と考察をおこない、次のような結論を導きだした。 まず、映像を用いた作品は、視覚だけでなく多様な感覚器官の作動を狙っている場合、さらにはそうした多層性を踏まえた展示演出をおこなう場合が少なくなく、マルティモーダルな経験構造の観点からの分析が必要であるだろうと判断された。 一方で、しかし、そうしたマルティモーダルな経験構造は、歴史的な変遷において考察する必要性があろうと思われた。つまり、デジタル技術以前の芸術作品に対するマルティモーダルな展示の試みを分析し整理し、それらとの比較において、デジタル映像を用いた作品の意味作用構造の厚みのある分析が可能になるであろうと結論された。実際欧米においては、古代期や中世期の芸術作品を、デジタル技術の十何の使用により、そのマルティモーダルな体験様態を復元する試みも活発になされてきており、それらを参考にしつつ、より踏み込んだ考察が必要であろうと判断された。
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