現代のマンガ、アニメーションの源流としての江戸時代の戯画について、その特質と近代・現代につながる性格について研究を進めた。とりわけ、従来研究があまり進んでいない大坂の戯画作者の耳鳥齋の戯画について調査研究を行った。 今年度は、まず作品調査を中心に進め、大阪、京都、兵庫、和歌山、三重、名古屋、福岡、東京に出張し、所蔵者を訪ね、写真撮影、文献収集などを行った。所蔵者としては、各地の美術館、博物館から、個人まで多様に広がっており、出張による調査研究が重要である。その結果、新しい作品の発掘や珍しい文献の発見があり、大きな成果を上げることができたように思われる。ただし、3年間の研究計画の内容に照らしてみれば、やはり約3分の1程度の成果であることも否定できず、22年度の調査研究の進展が望まれる。支出については、出張費、絵画資料の購入費、図書費などが中心で、その他に学会発表などに関わる費用が大半である。 また、公表した業績としては、耳鳥齋の戯画を3期に分類して考察した「耳鳥齋筆≪大石氏祗園一力康楽之図≫(関西大学図書館蔵)」(関西大学博物館紀要第15号)を初めとして、各種学会での発表や学術雑誌等への論文掲載を積極的に行った。 加えて、耳鳥齋の戯画は、贋作も多いため、直接、実作に当たっての調査が不可欠である。多くが新資料であるため、日本美術史の研究に寄与すること大であると考えられる。この調査を続けることで、耳鳥齋の戯画はもちろんのこと、研究の立ち遅れが目立つ江戸時代の戯画についての新たな研究が深化することは間違いない。その成果から、現代のマンガ、アニメーションの成り立ちについても、一定の解明がなされるに違いない。江戸時代から現代に至る<日本の戯画(マンガ)>の特質を明らかにすることは、現代的な意義をもつと考えられる。
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