平成21年度においては、まず東京を中心とした国内の図書館や民族学博物館、または書店を通じて研究課題に関する資料を収集した。 さらに、平成22年3月8日から29日にかけてロンドン、パリに出張した。ロンドンでは主に、ケ・ブランリー美術館と同様、「非西洋」に関する膨大なコレクションを常設展示している大英博物館や自然史博物館を見学した。その目的は、ルーヴル美術館やケ・ブランリー美術館の展示のコンセプトや方法との比較を行うためであり、この見学は研究課題を、美術館学的視点から考察するうえで非常に有意義であった。すなわち前者は「歴史的・人類学的資料」であるのに対し、後者は「造形芸術作品」としての展示であることが明らかとなった。また、パリでは、日本で入手困難なルーヴル美術館やケ・ブランリー美術館、そして、ジャック・シラク政権下の文化政策に関する文献資料を入手する一方で、ルーヴル美術館の「アジア、アフリカ、オセアニア」の新ギャラリーやケ・ブランリー美術館を見学し、展示のコンセプトや方法を考察する手掛かりとした。また、建築も視野に入れるため、ケ・ブランリー美術館を担当した建築家ジャン・ヌーヴェルによるその他のパリの公共建築(カルティエ財団美術館、アラブ世界研究所)も見学することができ、それらに共通する建築家の芸術や異文化、また自然に対するとらえ方を知るうえで非常に参考になった。 以上の調査・研究の過程で、より客観的な視点にたつためには、美術館側から発信する情報のみならず、来館者側からの視点も等しく不可欠であると思われ、ガラスのピラミッド完成から現在に至るまでのルーヴル美術館の人館者数の大幅な増加の要因について、来館者側から考察した。その内容については、松岡智子「ルーヴル美術館と<観衆>についての試論」(『倉敷芸術科学大学紀要第15号』15-26頁、2010年3月)を参照されたい。
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