平成21年度より、ルーヴル美術館内のアフリカ・アジア・オセアニア・アメリカ美術のギャラリー「パヴィヨン・デ・セッション」とケ・ブランリー美術館を出発点として、シラク政権下における美術館構想の研究に着手し、現在に至っており、その結果、パリの国立移民史博物館もまた、シラク前大統領が構想実現に向けて指揮していた、もう1つのミュージアムであることが判明した。この博物館は、1931年に開催されたパリ植民地博覧会のために建設された、植民地博物館の建物を使用した国立アフリカ・オセアニア美術館を、再度リニューアルし、2007年にオープンしたのち、移民の所有物や歴史的資料の常設展示の他、現代作家による美術展や、移民に関する企画展も開催されている。また、他にも演劇、フェスティバル、講演会などを随時行ったりするなど、活発に活動を続けており、移民についての関心を高めることを目的とし、かつ芸術性を備えたミュージアムとしては、フランスでは最初のものである。筆者は文献資料と現地調査に基づき、設立までの経緯と、常設展示室の展示方法や展示資料の内容の概要についての論文を作成し、このような博物館が設立されるに至った政治的・社会的背景についての考察を試みた。 シラク政権下に構想された以上の3つの事例は、<非ヨーロッパ>、<移民>という「他者」化を超え困難な課題ではあるが、文化主義的「統合」への実践的活動に着手し始めた、21世紀に向けてのフランスの実験的試みでもあり、ミュージアムの新たな可能性を模索するものとして、博物館学、文化政策、また人類学、美術史、社会学における学際的かつ超領域な研究の事例としても重要であると考えられる。
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