研究課題/領域番号 |
21520176
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐倉 由泰 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (70215680)
|
キーワード | 国文学 / 漢文学 / 表現史 / 文化史 / 学問史 |
研究概要 |
本研究は、平成21年度から平成24年度までの四年間の研究期間に、平安時代中期に成立した『将門記』と、室町時代中期に成立した『大塔物語』という二つの真名表記テキストを考察上の重要な定点としながら、漢詩文、古辞書、往来物、軍記物語、鷹書、和歌、謡曲、能楽伝書等の幅広い分野にわたる数多くの文献を調査し、それぞれの表現、用語の類似や関連について考証することを通して、古代から中世に至る数百年もの間、日本の文化の基層をあたかも伏流水のように貫流し、文化、学問の基底を支え続けた、真名表記をめぐる表現と知の系脈を解き明かそうとするものである。 その前半の二年間の平成21・22年度は、考証上の最重要の定点と目する『大塔物語』の注釈を行ったが、平成23年度は、その成果を基点にし、『大塔物語』の注釈をいっそう精緻なものに仕上げる中で、巨視的な視点も交えて、日本の文化史、学問史における真名表記をめぐる表現と知の意義を考察した。その結果、『大塔物語』と、平安時代の『将門記』、『尾張国郡司百姓等解文』、『仲文章』や中世の辞書、往来物等との間に用字、用語、表現の共通性、類似性が幅広く見出されるとともに、『将門記』、『大塔物語』等の用字、用語が『本朝麗藻』や『陸奥話記』等の用字、用語と大きく異なることも明らかになり、日本の古代以降の漢文学史に「吏の漢文、漢学」と「博士の漢文、漢学」という大きく二つの系脈があることが確認できた。さらに、吏の漢文、漢学を支えるリテラシーと博士の漢文、漢学を支えるリテラシーに、仮名の歌文を支えるリテラシーを加えた、あわせて三つのリテラシーが、日本の表現史、文化史、学問史を規定しているという大きな見通しと、そうした史的展開の実態を捉えるための貴重な手がかりを得ることもできた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『大塔物語』の注釈を基点にしての考察は、どこまでも広がり、深まって行くもので、まさに際限がないという実感を抱いているが、着実に考察の幅は広がって、考究は深化しており、日本の文化史、学問史における真名表記をめぐる表現と知の重要性も明確になってきていることから、順調に研究が進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究の最終年度に当たるため、研究成果をまとめて公表することと、考究をさらに新たな次元へと発展させることをめざす。研究成果のまとめと公表については、本研究を始めた平成21年度以来、考究の基点としてきた『大塔物語』の注釈的考察を中心に成果をまとめた報告書を作成することとし、それを各地の図書館、専門や関心を同じくする研究者等に送付することを期する。これまで行ってきた注釈的考察の成果を精細に幅広く整理し確認し、厳正な再検討を加え、調査、考察が十分でなかった点については、それを補って、日本の表現史、文化史、学問史の研究に十分に寄与し得る完成度の高い報告書を公表できるよう努める。また、考究の新たな次元への発展については、こうした注釈的研究の成果をふまえつつ、真名表記をめぐる表現と知の重要性をより明らかにする中で、日本の文学史、文化史、学問史を捉え直す観点が得られるよう、幅広い展望に立った根源的な考察を深めるとともに、得られた成果の中でまとまったものを学会において発表する。
|