本申請研究は、日本中世における宗教と芸道および文学との関係について、<読経道>を中心として考究するものである。一次資料の収集と解読を通じて<読経音曲>の解明を目指し、文学・宗教・芸能における読経道の文化史的意義を明らかにすることを目的とする。 上記に基づき、本年度は、中世における読経のメッカであった書写山円教寺への複数回にわたる調査を行った。開山性空上人への信仰について、新たな、かつ重要な発見があり(開山堂より性空にまつわる遺物が発見された)、それについて周辺資料を参照しつつ考察を進めた。また、書写山信仰にも関わる慶政について、博物館における資料展示を熟覧したり、関連資料を収集したりすることを通じて、論考「慶政と園城寺-慶政『三井寺興乗院等事』『大師御作霊像日記』を読む-」を纏めた。さらに、読経道の根幹資料である『読経口伝明鏡集』の、学界未紹介の一本を見出し、調査および紹介を行った(「六所家本『読経口伝明鏡集』について」)。本書は、富士市立博物館所蔵の六所家資料中の一書であり、その特色について考察も行った。読経音曲の解明については、上記資料の調査研究とともに、京都市立芸術大学における「フシ」の共同研究に加わり、他分野の研究者と意見を交わしながら研究を進めている。なお、調査研究においては、初年度たる本年度に備えたパソコン及びビデオカメラ、図書を活用した。以上、本年度は、(1)読経道の新出資料の調査研究と紹介、(2)読経道の中心たる書写山に関する考察、(3)読経音曲解明に向けての作業、この3点を中心に研究を進め、それぞれ成果の一部を公表している。
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