本申請研究は、日本中世における宗教と芸道および文学との関係について、〈読経道〉を中心として考究するものである。一次資料の収集と解読を通じて〈読経音曲〉の解明を目指し、文学・宗教・芸能における読経道の文化史的意義を明らかにすることを目的とする。 本年度は、読経音曲の解明に取りかかり、『読経口伝明鏡集』を主軸に複数の読経道文献の読解作業を通じて、具体的な歌唱に関わる2本の論文を執筆した。「読経道と読経音曲-読経音曲の復元に向けて-」(『京都市立芸術大学 日本伝統音楽研究センター研究報告書』、近刊)と、「平曲と読経道-書写山をめぐって-」(磯水絵還暦記念論集、近刊)である。両論文とも、中世における読経のメッカであった書写山円教寺への複数回にわたる調査による成果を含むものである。読経のみならず、平曲との連関を考察することによって、読経道の文化史的位置づけを図った。 また、説話分野に関しては、論文「『沙石集』の道命和泉式部説話-読経道伝承から読み解く-」(無住研究会編『沙石集論集(仮題)』近刊)をまとめた。伝承の基盤や内容について、無住を軸に考察したものである。読経道伝承がいかなる場でどのように伝わっていくのかの一つの事例と位置づけられる。 さらに、読経道の根幹資料である『読経口伝明鏡集』の、学界未紹介の一本を見出し、調査を行った。弥勒寺への調査の成果である。本書については、次年度に詳細な報告を行う予定である。 以上、本年度は、(1)読経音曲解明に向けての作業、(2)読経道の中心である書写山に関する考察、(3)読経道の新出資料の調査研究、この3点を中心に研究を進めた。
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