本申請研究は、日本中世における宗教と芸道および文学との関係について、〈読経道〉を中心として考究するものである。一次資料の収集と解読を通じて〈読経音曲〉の解明を目指し、文学・宗教・芸能における読経道の文化史的意義を明らかにすることを目的とする。 本年度は、読経音曲の解明に関して、次のような成果を得た。まず、口頭発表・講演として、以下の2件を行った。「読経道と書写山」(書写山円教寺開山堂落慶法要 記念講演会、2012年4月10日、於書写山円教寺)では、読経道が隆盛に及んだ播磨の書写山円教寺における文化的・芸能的様相について講演した。また、「読経の音曲―その芸態と歴史的展開―」(名古屋大学大学院比較人文学先端研究特別演習 公開研究集会、2012年12月22日)では、これまでに解明した「読経音曲」の形態と特色について公にした。 また、論文としては、柴佳世乃「平曲と読経道―書写山をめぐって―」(磯水絵還暦記念論集、和泉書院、2013年5月予定)、柴佳世乃「読経道の音曲―法会における音曲の解明に向けて― 」(『巡礼記研究』第九集、近刊)において、読経音曲の芸能的・音楽的特色について、一歩踏み込んで論じ、本研究で成し得た、最新の成果を盛り込んだ。読経道の口伝書の嚆矢であり、かつ後のカノンともなる『読経口伝明鏡集』の「読経音曲」条の全文を解読することに努め、その結果、読経音曲の骨格と時代による変化変容が浮かび上がり、法会において行われた説経の音楽的変容やその形態(芸態)とも連動するものであることが明らかとなった。 以上、読経音曲の具体相や、読経口伝書について調査研究した成果、ならびに隣接する諸文化における読経道との関連についての成果を公にした。
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