本研究は、中世前期の和歌を、東西地域の交流という視点から考察することを目指した。具体的には1)源実朝の和歌の注釈学的研究、2)東国に影響を与えた新古今歌人の方法の分析、3)京極派和歌の形成における東国和歌の関与、の三つを主題とし、中世前期、鎌倉時代に、東国に権力機構を形成した武士たちにとっての和歌の意味を解析し、また、東国と朝廷の相互の和歌の影響と交流の具体相を分析することを目的とした。それに基づき、(1)『金槐和歌集』の文献学的研究、(2)『金槐和歌集』の注釈的研究、(3)『新古今和歌集』の文献学的研究、(4)新古今歌人の本歌取りの方法の分析の4点につき研究を実施した。これらにつき、研究はおおむね順調に進み、その成果をもとに、古代中世和歌全体についての考察を深めた。『金槐和歌集』の注釈は、平成24年度中に刊行する予定である。実績としては、勅撰和歌集の歴史全体をまとめた「天皇と和歌-勅撰和歌集の時代」の論考を発表した。一般書の体裁をとるとはいえ、単なる和歌の歴史的事象の羅列ではなく、それぞれの時代の和歌表現の特色まで織り込んだ創意ある和歌通史として高く評価された。また、別に公刊した論文「歌合の〈声〉-読み上げ、詠じもしたる」は、藤原俊成の『古来風躰抄』の本質論で、そこに伝承を生みだす文体への志向を発見した論文だが、ただ俊成一人を論じるにとどまらず、新古今的な方法とも関連することを示しており、これは(4)の成果が基盤になっている。また、(3)・(4)と関連して若手研究者6名と行っている『新古今和歌集』の注釈作業も並行して進行しており、平成25年度中までに注釈が完成し、刊行される予定である。.
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