平成21年度における本研究課題の成果は以下の通りである。 (1)本年度前半期で実施した「敦煌書儀本文の校訂作業」については「吉凶書儀」の主立った敦煌文書5件について終了することが出来た。これによって、那波氏の校訂本文との異同関係を明らかにする素地が整った。また『高野雑筆集』語彙集成の見直しについては巻上までの検討を終えることが出来た。 (2)上記の成果を踏まえて「『高野雑筆集』語彙集成」の補訂作業については巻上について実施し、語彙集成の完成度をより確実なものとした。またあわせて一部注釈の作業を行うことが出来た。 (3)本年度後半期に実施した敦煌書儀語彙集成に向けての語彙調査は、先行研究で掲出されている語彙のうち、呉麗娯氏と王啓濤氏に共通して見られる語彙の抽出を終えた。この作業を張氏の掲出語彙との比較対象作業は次年度に引き続き実施予定である。 (4)あわせて奈良朝書簡語彙集成作業は、『萬葉集』内に見られる書簡語彙を中心に作業を行った。参照した『新日本古典文学大系』(岩波書店)『新編日本古典文学全集』(小学館)の脚注・頭注に指摘されている書簡表現の抽出と一覧作業を終えた。次年度は正倉院文書DB等を活用した調査と抽出を引き続き行う。 以上の作業から得た知見については、「書儀・尺牘の受容-起筆・擱筆表現を中心に-」(萬葉集研究第30集、塙書房)、「大伴家持の詩的表現受容・素描-越中国守の作品から-」(長野県国語国文学会「研究紀要」第8号)の中で、その一部を公開した。
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