今年度は下記を中心に研究を行った。 1)『俳諧十論』『二十五箇条』の注釈をした美濃派伝書を認定し、その一部をデジカメで写真撮影した。 2)支考俳論と美濃派伝書の俳諧史的展開を考える上で、欠くことの出来ない蝶夢の俳論、『蕉門俳諧語録』『門能可遠里』『俳諧童子教』などの翻刻、解読を行った。 3)『蕉門俳諧語録』の出典調査を行った。 4)蝶夢が跋文を書いている『俳諧十論』の注釈書(十論講の講義録)、『俳諧十論発蒙』の解読、分析を行った。 5)美濃派道統周辺(特に以哉派)に伝来した『俳諧十論』注釈書、『俳諧十論弁秘抄』(『俳諧十論聞書』)の解読を永田英理氏と共同で行い(俳論研究会)、『雲雀野』32号に前半部分を翻刻紹介した。『俳諧十論弁秘抄』は、支考の十論講の講義録(原著者は支考)と見られるものであり、支考自身の解説、および、美濃派道統周辺の人々が『俳諧十論』をどのように理解、享受したかを知る上で貴重な資料である。 以上により、 1)これまでの『俳諧十論』解釈が非常に偏ったものであることを明らかにした。 2)支考や美濃派道統の理解に即した『俳諧十論』解釈を可能にする資料を翻刻紹介した。 3)これまで全く注目されていなかったが、支考俳論と美濃派伝書の俳諧史的展開を考える上で、蝶夢の存在が非常に重要であることが明らかとなった。 『俳諧十論』の支考による注釈書を解読し、蝶夢の重要性が明確になった本年度の研究は、本研究全体の目的の一つめである、「『俳諧十論』『二十五箇条』等の支考俳論を正確に解読した上で、それをもとにした美濃派伝書が、「反美濃派」を含めた俳諧史に与えた影響とその内実を解明する」の、基礎的研究となっている。
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