1、支考自身による『俳諧十論』講義録『俳諧十論弁秘抄』の調査、翻刻、研究を行った。 その結果、「虚実」が「心法」であることなど、『俳諧十論』を中心とした支考俳論の本質が明確となった。これは、虚実論を「表現論」と「風雅の態度論」に分けた上で前者を支考虚実論の特徴とする通説を是正し、研究代表者がこれまで唱えてきた一元的な虚実論理解を明確に裏付けるものであり、これにより通説は是正されるだろう。 2、前年度の研究でその重要性が明らかとなった蝶夢俳論の調査、研究を行った。その中で、蝶夢の「まことの俳諧」が、支考の虚実論を中心とした俳諧観の本質を継承するものであることが明らかとなった。従来、蝶夢は美濃派を批判し、支考にも批判的であると考えられてきたが、事実は全く逆で、蝶夢こそ、「美濃派的なるもの」を正当に継承し、発展させていたことが明らかとなった(来年度発行される雑誌に投稿、受領済)。 3、『俳諧十論』の注釈書一覧を作成し、その翻刻、研究にとりかかった(来年度へ継続)。 今年度の研究により、支考の俳諧観の本質が心法を元にしたものであること、またそれが蝶夢等に継承されていることが明らかとなった。これは、用語や表面的言説、師系に囚われていては理解できない、「美濃派的なるもの」の本質である。 それにより、「美濃派的なるもの」とその享受のさらなる解明、一般に反美濃派(非美濃派)と考えられている俳論への支考や美濃派の影響の解明、そしてそれらを総合した、支考と美濃派の俳諧史的展開を明らかにしてゆく基礎の第一段階が整ったといえる。
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