今年度は、第二年目として、本格的な調査・研究に入った。調査では、中国の図書館に所蔵される古典籍の調査を行うことにした。中国の全土について、留学生や、中国での日本文学研究者の助力を得て、広範囲に調査したが、所謂中世小説関係の伝本は、その存在を確認出来なかった。そこで、方針を変えて、中世小説の中で、中国の文献に由来する作品(二十四孝、楊貴妃物語、李阿伝等)について、その原初の形を知るために、北京の国家図書館の本館と旧館において、本文と挿絵についての書誌的調査を行った。その結果、多くの知見を得ることが出来、成果があった。また、国会図書館、国文学研究資料館、聖徳大学、法政大学等で、中世小説の伝本の閲覧が出来た。さらに、学習院女子大でのシンポジウム「海外所蔵の絵巻・絵入り本」(説話文学会146回例会)で、コメンテーターを務め、「海外に所蔵される中世小説の伝本の、所蔵実態、所蔵されるに至った経緯、調査の実態、海外に所蔵されることの意義、重要な伝本の紹介」等を行うことが出来、意義があった。また、中世小説に関係した書籍の購入も出来、先に海外で調査したイリノイ大学の伝本の翻刻を行うことも出来た。その上で、中世小説に描かれた男女の出逢いと別れが、日本文学の神話以来の伝統を負ったものであることを論証した論文も執筆でき、意義が深い一年であった。
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