本研究は、副題が示すように二本の柱(「近世琉球に生まれた擬古文物語の考究」と「近世琉球で詠まれた和歌の基礎的研究」)から成るが、当該年度は、前者の考究を進めるとともに後者のデータベース作成に着手した。 前者については、近世琉球を代表する和文学者である平敷屋朝敏によって書かれた四編の擬古文物語のうち、前年度までの研究において終わっていた四編の本文整定作業と先行研究・先行注釈の整理作業を踏まえ、特に手つかずとなっていた『貧家記』『苔の下』の二編に私見・私注を加える作業を行った。 同時に、私が教育学部に所属していることもあり、現行の学習指導要領(国語科)において重視されている「伝統的な言語文化」の沖縄版として平敷屋朝敏の物語を教材化したいとの念から、『萬歳』を用いた中学生用教材を作成し、論考として発表した。 また後者については、アンソロジー『沖縄集』他の各句索引・語彙索引を作成している段階である。まだ発表できる状態ではないが、最終年度は成果公開に向けて鋭意努力する。 なお当研究の意義は、近世琉球の和文学において極めて色濃いヤマトの王朝文学の影響を確認することにより、これまで「琉球・沖縄の文学」として別個に扱われたきた近世の和文学をヤマトの王朝文学の系譜上に位置づけるところにあり、それは日本文学史を地域・辺境から捉え直し、異議を申し立てることにほかならない。当該年度の研究を通.して、その方向性に改めて確信をもつことができた。
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