本研究は、新古今歌人慈円における和歌活動を解明するために、法楽百首群の作品内容を分析することにある。その中には法楽対象である寺社への奉納意図の他に、白氏文集や法華経廿八品から選出された歌題に関する基礎的考察、また寺社縁起に関する資料整理など、興味深い課題が残されている。その基礎的な作業を迅速にこなした上で、寺社縁起に関する資料整理に特化して収集作業を行うことにした。 日吉社に続いて、伊勢神宮についての資料整理については、『延喜式』『皇太神宮儀式帳』『大神宮諸雑事記』などの初期資料の分析に拠って、伊勢の本地をめぐっての真言密教との関係を探ってみた。それ以降の『倭姫命世記』『伊勢二所皇太神宮神名秘書』『建久三年皇太神宮年中行事』などの検討を経て、内宮・外宮の摂社から別宮への昇格改称の問題について考察を進めて行きたい。従来の先行研究で遥か後代の『類聚神祇本源』に依拠することの問題についても、また東大寺と大日如来本地説についても検討したいと思っている。 これらの調査を進めるにあたって、神道大系・群書類従などに翻刻があるもの以外に、写真版のものの多くが頒布について難しい条件が付けられているので、遅々として資料解読が進まない。また資料の特異性もあって、その扱いには慎重な厳正さを求められるので、礼を失しないように、かつ遺漏の無いようにしなければならない。これらの二年度までの反省点を確認しながら、次年度の資料収集作業を進めて行きたい。
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