本研究の目的は、データベースを活用した歌舞伎の画証的研究において新たな成果を得ることである。研究実施計画に従い、海外の美術館の調査および図録による該当する役者絵の選定を精力的にすすめた。特に夏休みを利用して訪問した英国の大英博物館およびリーズ大学ティニオス研究室では、初見の役者絵を閲覧することができた。デジカメで撮影した画像について、上演年代、外題、役者を考証し、それぞれの情報をデータベースに格納した。肉筆画、版画、挿絵などの絵画資料があったが、データの基本は版画の役者絵とした。芝居の上限は元禄10年(1697)で、享保期(1716~35)以降データが増え、宝暦期(1751~63)にはさらに倍増した。そして何度かソートしなおし、最終的に「元禄歌舞伎年表」を作成した。これまで『歌舞伎年表』(岩波書店)等に記されていなかった芝居-たとえば享保16年「好色-代男」に取材したもの-など、新たな演目を多数年表に加えることができた。また、宝暦期には同一狂言に取材した複数の作例を確認することもできた。しかしまだ公開するには不備なところも多い。今後はこの視点を更に追求し、同一狂言に取材した役者絵の絵師・版元による表現の違いや、歌舞伎狂言・義太夫狂言など戯曲構造の違いなどにも注目してみたい。浮世絵は単なる取り合わせの絵ではなく、伝えたい情報を用意している。さまざまな情報を関連づけることによって、新たな絵の読みが可能となる。そのためにも更なるデータベースの拡充を引き続き目指したい。
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