本研究の目的は、浮世絵データベースを活用して、歌舞伎を画証的に研究することである。研究実施計画に従い、4月以降、国内外の図録等から役者絵や歌舞伎関連の挿絵を選定・研究した。加えて長期休暇中は英国のケンブリッジ大学図書館、大英博物館などで歌舞伎関係の浮世絵および版本を閲覧し、作品の状態を確認するとともに写真撮影を行った。入手した画像は同時代の文字資料等との確認作業を行った上で、データベースに格納できる情報に整理しなおし、年代、演目、役者、役名、版元等一つ一つ入力していった。本年度の研究実績は、新たに調査した浮世絵情報を加えることによって、役者絵は歌舞伎の場面、役者の動き、役柄の形などを類型的にとらえられることが明らかになった。これまで数点しか確認できていなかった子役市川升五郎の役者絵においては、多くの画像を集積することができ、姿の類型表現とせりふの類型的趣向を確認することができた。歌舞伎研究に役者絵という画証を加えることによって、江戸時代の子役とその演技術を多角的に検証することができた。また昨年より立ち上げた「初期浮世絵検索システム」に役者絵の「版元」検索を加えることができた。歌舞伎の舞台を写す役者絵を役者や役名など芝居の側から検索するだけでなく、それを出版した版元の側からも検索可能となった。本データベースは歌舞伎を浮世絵という画証から研究するために有効なシステムとして構築できた。
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