当該年度における研究の成果は、大きく三つに分けて説明できるであろう。一つめは上海万国博覧会の見学を果たしたこと、二つめは本研究の最終年度にあたる次年度の研究成果公開に向けての準備作業、三つめは石川巧による本課題に沿った研究成果の発表である。 一つめについては、日本の大阪万博と対応関係を見出すことができる上海万博の見学を共同研究参加の三人で果たしたことの意義は大きい。中国国内では成功と高く評価されながら、日本など他の国では成功の評価は聞かれなかった。三人は日本のパビリオンを中心に見学したが、そこに野心的な文化的営為を認めることはできなかった。高度成長期における内向きの国家・国民の志向を確認することができたのである。 二つめについては、共同研究参加の三人以外の執筆者の人選、著書の方向性についての検討会を複数回おこない、出版の可能性を具体的に模索した。本研究チームにおける二冊目の著書刊行の実現までの具体的な道筋を見すえることができたことは大きな意義をもつと考える。 裏面の研究発表の具体的な記述に明らかなように、共同研究参加三人のうち、石川巧が複数の研究成果を公にした。同棲を主題とした小説、入試作文・小論文、万博と文学と、いずれもこれまで研究の蓄積がほとんど皆無の領野を切り開く斬新な視点に基づき、かつ丹念な検証作業に支えられた研究である。本研究課題を基点として、独創的な研究が生まれた意義は非常に大きいであろう。
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