・本研究の重要な実績として、研究分担者である石川巧の著書『高度経済成長期の文学』(2012年2月、ひつじ書房)が上梓された。知性・大衆・欲望・事件・教化の五つの章に配置された15本の論文が、私たちの共同研究の深まりと成果を雄弁に語っているだろう。急速に経済発展する中で、戦後に求められた自立した市民という理想像は、大衆の欲望に呑み込まれる。大学生の知の先鋭化や国家の指針と結びついた教科書の戦略も、最終的には時代の大きな欲望のありようを示すことになる。私たちの研究は、中国の現在との比較という点、またサブカルチャー的な視点をとりいれるという点においては十分な成果を残すことはできなかったが、日本における文化現象を高度経済成長期という観点から具体的にかつ学術的に研究したという側面においては、一定の実績をあげたと考えられるだろう。 ・共同研究メンバーにより2007年に共著として上梓した『高度成長期クロニクル』に続く2冊目の著書に代わり、研究分担者の石川巧が同人となっている定期刊行の学術誌『叙説』において、高度経済成長期の特集を組むことになった。原稿依頼者の検討などを、本メンバーでおこない、私たちの共同研究をさらに広い文化的な側面に広げ、今後の文学研究・文化研究に寄与したいと考えている。
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