本研究は江戸時代初期に隆盛を迎えた日本の活字印刷(古活字版)に関して、書誌学的・文献学的に研究を行うものである。古活字版は文禄年間に初めて刊行され、以後、慶長・元和・寛永と続くが、本研究では各年代における古活字版の特徴を明らかにし、最終的には古活字版の創始から終焉にいたる全体像を動的にとらえることを目指している。 平成21年度は、創始期の古活字版の諸問題について考察を深めた。その一つは、キリシタン版と古活字版の関連の問題である。元来、日本の古活字版は文禄の役により奪取された、朝鮮の活字印刷技術をもとに創始されたものと考えられてきた。しかし一方で、古活字版の創始にあたってはキリシタンの活字印刷技術が影響を与えたのではないか、という論説も有力である。そこで、明治期以来のキリシタン版研究の動向を追い、さらに近年のキリシタン版起源説をとる有力諸説の検討を行った。その結果、南蛮学に傾斜した新村出の研究の問題点を明らかにするとともに、近年の有力諸説には朝鮮古活字版をめぐる資料読解が不十分であるといった点を明らかにした。よって、日本の古活字版の創始にあたっては、朝鮮活字版の存在を第一に重視すべきであるという結論にいたった。 つぎに、平成21年度は、慶長年間初期を代表する古活字版である要法寺版の調査を行った。その中でも数多くの版種を持つ『重撰和漢皇統編年合運図』の書誌調査を実施した。その結果、慶長年間に刊行された同書の版種数の実態が解明された。各版の先後関係・影響関係については、平成22年度の課題である。 以上のように、平成21年度は文禄・慶長期の古活字版の諸問題について、調査・考察を行った。
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