「古活字版の展開を追う一慶長・元和・寛永一」のテーマのもと、近世初期に刊行された古活字版の書誌学的研究を平成22年度も継続した。本年度においては、特に文禄・慶長期に日本で活字印刷が開始されるにあたり、いかなる文化圏の影響を強く受けたのかといった問題について検証した。近年、キリシタン版の印刷技術が古活字版の創始に強くかかわったとする学説が注目されるようになったが、『李朝実録』などの史料を検するかぎり、朝鮮活字版と日本の古活字版との共通性はうかがえる。その点を重視することにより、日本の古活字版の淵源は考察されるべきであることを論文「古活字版の淵源をめぐる諸問題一所謂キリシタン版起源説を中心に一」で述べた。 また、高野山霊宝館等へ出張する機会を得て、高野山で刊行されたと思しき古活字版を集中的に調査した。その結果、古活字版『御請来目録』の諸版の系統分類を行った。 また、慶長期の高野山古活字版の刊行者・幸悦、元和・寛永期の刊行者・浄善の刊行書が、それぞれ京都の活字版の影響を強く受けているのではないかという見通しを立てるに至り、その点の見解を平成23年4月23日より開催される印刷博物館企画展示「空海からのおくりもの」図録で報告する予定である。
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