本年度は慶長後半から元和・寛永期にかけて開版された古活字版の調査を行った。まず、慶長年間の京都要法寺の日性による出版活動の実態を解明するため、日性が編纂した『重撰倭漢皇統編年合運図』の諸版の検討を行った。天理大学附属天理図書館、名古屋市蓬左文庫へ訪れ、〔慶長八年〕刊古活字本、整版本二種の書誌調査を行ったほか、筑波大学附属図書館蔵古活字版の調査を実施した。その結果、同書が異なる版種をもって多数刊行されている状況を明らかにした。その成果の一部は、大澤顯浩氏編著、学習院大学東洋文化研究所叢書『東アジア書誌学への招待』第2巻(東方書店、2011年12月)所収、小秋元著「慶長年間における古活字版刊行の諸問題」に発表した。 また、学習院大学文学部日本語・日本文学科所蔵の写本『平家物語』表紙裏張の古活字版『医学正伝』『枕草子』の調査を行った。『医学正伝』については同版本の特定にはいたらなかったが、概ね寛永期の刊であることが判明した。本裏張に使用された『医学正伝』に関しては、慶長期の角倉関係者の刊行と見る先行研究もあるが、この説には疑問があることが判明した。この点は追加調査を実施し、論文として公表したい。 このほか、2010年度に行った高野山開版の古活字版の調査結果を論文にまとめ、2011年印刷博物館春期企画展図録『空海からのおくりもの-高野山の書庫の扉をひらく』(印刷博物館、2011年4月刊)所収、「仏教信仰がはぐくむ古活字版」として公表した。本論文では、高野山開版の古活字版の活字の字形から、山内の活字出版が京都の影響を強く受けていることを論じた。
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