本年度の活動は、コピー資料として事前に収集していた『大島筆記』山内文庫本の翻刻、三度にわたる琉球船、土佐漂着資料(「清水浦琉球船漂着聞書」、『大島筆記』、「琉球船漂恙記」、「下田日記」「宇留麻話」等)に登場する人物の家譜資料収集(平成22年3月10日~13日、沖縄県立図書館、琉球大学附属図書館、那覇市歴史博物館)と、『大島筆記』附録に入る「琉球歌」56首の注釈の論文化(「『大島筆記』附録所収の「琉球歌」」『立正大学人文科学研究所年報』第47号)、年間を通した関連資料、図書の収集である。 三年間の科学研究費補助を予定している本研究において初年度にあたる本年の第一の研究活動は、善本と判断される『大島筆記』の翻刻を最初に手がけなければならないことはいうまでもない。本研究においては、山内文庫本がとりあえずの善本と定めて翻刻した。本年度は、事前に収集していたコピー資料(国文学資料館のマイクロフィルムからの複写資料)を利用したが、濁点、読み仮名(ルビ)が墨書か朱書きかの確認、若干の虫食い箇所の確認等の課題が残っており、次年度においてはその確認作業が必要となる。また、他の写本の収集とそれらとの校合が必要である。沖縄県に出張した家譜資料収集は、喪失した家譜資料が多く、また未収集の家譜もあり、琉球の家譜を最も収集している那覇市歴史博物館を含めて資料調査にあたったが、現在把握している以上の新たな資料収集はできなかった。なお、資料調査の中で『麻氏兄弟たち』(渡口真清、自家版、1970年刊)に若干の手がかりとなる記事を発見した。今後の資料調査を継続しなければならない。論文「『大島筆記』附録所収の「琉球歌」」は、これまで「琉球歌」(琉歌)56首の研究が行われていなく、『大島筆記』の基礎的研究を進めるにあたっては、当然、必要な研究である。漂着資料に収集された歌謡資料を比較するだけでも、『大島筆記』の資料的な性格が明らかになるのである(参考拙論「琉球船、土佐漂着史料『宇留麻話』所収のウタ」『立正大学人文科学研究所年報』第46号、2009年3月刊)。
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