2年目に当たる本年度の研究活動の第一は、昨年度、翻刻した山内文庫本『大島筆記』を実物と付き合わせることにより、虫食い箇所の確認、濁点、読み仮名等の書き込みが墨書であるか朱書きであるかの確認を行い、山内文庫本『大島筆記』の翻刻を完成させたことである。さらに、山内文庫本と非常に近い関係だとされる内閣本『大島筆記』(横山学「宝暦十二年琉球国船漂着記録「大島筆記」諸本について」『生活文化研究所年報』第11輯)との校合作業をして、虫食い箇所の文字の確定等を行った。また、『大島筆記』と同じ宝暦12年(1762)の琉球船土佐国漂着記録である「琉球船漂恙(着)記」(高知県立図書館蔵)と『大島筆記』の作者、戸部良煕の随筆集『韓川筆話』十巻(国会図書館蔵)から琉球関連の記事を抜き出して翻刻を試みた。これらは未だ知られていない資料であり、『大島筆記』の理解のために重要であると考える。昨年度に引き続き、琉球船土佐国漂着者等の家譜資料調査も継続した。今年度の調査では、「七世 太田仁屋 上江洲親雲上」の家譜等を那覇市歴史博物館で収集した。「太田仁屋」は久米島の出身で「乾隆七年」(1742)生まれ。20才の時に土佐国に漂着している。「太田仁屋」の存在は、仲原善忠「「大島筆記」と太田教富」(『仲原全忠全集』第1巻)で知ったが、この人物が『大島筆記』に記されるどの人物に相当するか、はっきりしない。次年度の課題である。なお、平成22年度奄美沖縄民間文芸学会沖縄大会(9月23目、沖縄国際大学)において、これまでの成果を利用して「琉球船、土佐国漂着資料所収のウタ」と題して発表を行った。
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