本年度は課題研究の最終年度であるが、国会図書館蔵の『大島筆記』が山内文庫本よりもさらに善本であることが判明したことにより、これを底本にし山内文庫本と内閣文庫本との異同を記して『大島筆記』を翻刻した。さらに本年度は、一昨年から収集してきた『大島筆記』に関連する資料(『余氏家譜大宗 六世秀由山饒濡筑登之親雲上」記事、『坐馬姓世系図七世教富』記事、渡口真清『麻氏兄弟たち』等)をまとめた論文を「『大島筆記』に関連する資料」(『立正大学文学部論叢』第134号、立正大学文学部、平成24年3月刊)として発表した。この論には、『大島筆記』が記される資料のひとつであったと考えられる『琉球船漂着記』や土佐藩の公式記録である『豊敷公紀』(山内文庫蔵)の琉球船漂着に関わる記事、及び『大島筆記』の作者である戸部良煕の随筆『韓川筆話』(国会図書館蔵)から琉球関連記事を抜き出し解説を付して翻刻している。また、「琉球船、土佐漂着資料にみる伝承的記事をめぐって-二つの天女伝承を中心に-」(『奄美沖縄民間文芸』第11号、奄美沖縄民間文芸学会、平成24年3月)と題する『大島筆記』を中心とする琉球船、土佐漂着資料から特に天女伝承に焦点をあてた論を発表した。これは王都首里の西方地域の天女伝承が王権に繋がる系譜伝承であるのに対して、首里の東方地域の伝承が当時語られていた世間話的な伝承であったことを示したもので、それは王都を中心とする東西の時空の位相に及ぶ問題になることを示した。また、「琉球船、土佐漂着資料の世界」(『法政大学沖縄文化研究所所報』第70号、法政大学沖縄文化研究所、平成24年3月)を書いて、これまで『大島筆記』を中心とする琉球船、土佐漂着資料に関わる7本の拙論(1本は未刊行)の概要を示した。
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