今年度の研究成果は、大きく二つに分類される。一点目は、当該科学研究費によるプロジェクトの一つである『占領期雑誌資料大系文学編第1~5』(岩波書店)を2011年8月に完結させたことである。研究代表者と研究分担者が編者としてかかわったこのシリーズがまとまったことで、占領期日本の文学と検閲を検討するための基礎資料が整うことになった。今後はこの資料を活用し、さらに新たな資料を収集し分析することで、占領期日本文学の研究、あるいは日本の検閲と文学の研究は、さらに進展することになるだろう。二点目は、当該研究の成果を広く共有し、活用してもらうべく、フランスとアメリカの研究者たちと研究の意見交換を行ったことである。フランスの研究者とは、INALCO(フランス国立東洋言語文化研究学院)と早稲田大学国際日本文学・文化研究所共催の国際ワークショップ(2010年10月16日、早稲田大学)を開催し、「文学テクストに刻印された二つの検閲の痕跡一交錯する内務省とGHQのメディア規制」の発表をした。また、アメリカにおいては、当該研究にかかわる講演や講義を行うと同時に、研究上の交流を行った。講演については、2011年3月4日・5日にシカゴ大学で開催された、「The Ninth Japan at Chicago Conference」における「文学の「神様」から「戦犯」へ-横光利一の戦前から戦後に至る評価の変遷とメディア」がある。講義については、2011年2~3月のコロンビア大学大学院での講義があげられる。特に3月21日開催の「検閲ワークショップ」は、当該研究テーマと密接なかかわりをもつものである。
|