本年度は、研究のまとめに向けて定期的に研究会を開催し、議論を深めると共に、引き続いて資料の調査・収集を行った。 まず、医事説話と関わって、病を引き起こす「虫」が、どのように日本で論じられてきたかについては、代表者、分担者のほかに、人類学者ペトロ・クネヒト氏に加わってもらい、月例の研究会、および調査旅行を行った。その結果「疳の虫封じ」と仏教典籍の関わりなど新たな知見を得ることができた。また室町期の「虫」病についての資料について調査・検討を行い、「虫」病が誕生した頃の言説について議論を行った。また、それらの今年度あらたに得た成果と、従来の成果を合わせた論考が、来年度中に名大出版会より単行書として出版される予定で、本年度は共同でその原稿作成に当たった。第一稿を完成することが出来、学内の出版助成を得るべく、現在審査を待っている所である。 鎌倉時代の医事説話集『医家千字文注』『医談抄』については、説話文学研究者の中根千絵氏に加わってもらい、上記の研究会とは別に月例の研究会を開催し、注釈作業を進めた。本年度は主に『医談抄』についての輪読を進めた。中国の文献との比較や、あるいは編著者自身の漢文読解が充分でないゆえに意が通じにくい所の読解など、困難な点が多く、作業はいまだ上巻の途中であり、やや遅れがちではあるが、着実に進みつつある。また、この成果を元に分担者辻本は両書の求めようとしたものがそれぞれ何であったのかについての論文を発表し、それぞれの医事説話集の性格や目的の違いについて明らかにすることができた。
|