研究課題/領域番号 |
21520217
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
花崎 育代 立命館大学, 文学部, 教授 (00259186)
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キーワード | 国文学 / 大岡昇平 / 戦後文学 / 草稿研究 / デジタルアーカイブ / 『俘虜記』 / 『武蔵野夫人』 / 『野火』 |
研究概要 |
大岡昇平文学の研究において、構想ノート・草稿類を含む自筆原稿までを視野に入れたものは、ほぼ皆無であった。本研究はこの現状に鑑み、草稿、原稿段階からの大岡文学の基礎的総合的研究を企図したものである。平成21年度からの4年間の本研究の計画ではとりわけ大岡昇平の作家的出発期であることの重要性と、かつ日本における紙媒体の質の問題から、その劣化による判読不能が目前に迫っているといえ喫緊の課題であるという緊要性を有する昭和20年代の『俘虜記』『武蔵野夫人』『野火』を中心とした原稿類を調査している。 平成23年度は、主に神奈川近代文学館(神奈川県)が所蔵する大岡昇平『野火』の、校正刷に記された詳細な補足や朱筆といった自筆稿類の調査を行った。とくに大岡のみならず戦後日本文学の代表作である『野火』の雑誌初出(『展望』昭和26年1-8月)の手入切抜、初版(創元社、昭和27年2月)の手入校正刷のうち所蔵されている初校および三校について、デジタル一眼レフカメラによる撮影を行った。大岡著作権継承者により現在原稿類の公刊は認められていないが、撮影の許可はおりているため、可能となったものである。日本文学の貴重な資料を後世にいかに伝えるかということにおいて上述の理由からきわめて喫緊かつ重要な仕事を行ったと言える。 研究成果物としては、『武蔵野夫人』生成過程を中心とした国際高等研究所での口頭発表を平成23年に「受容と創造性』の一章としてフランス語訳で公刊したほか、本研究の開始年度の平成21年度に撮影調査した『俘虜記』を中心とした原稿等手稿の考察を、平成24年6月に「大岡昇平手稿『俘虜記』の考察」として『論究日本文學』第96号に掲載することが予定されている。 また大岡昇平など戦後文学を中心とした手稿研究の一環として、時期的には昭和30年代前半となるが、当該戦後出発期にすでに鉢の木会員として交友のあった大岡や三島由紀夫等の文学者による編集同人誌『聲』の現行調査の一端を、所蔵する日本近代文学館(東京都)の館報に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
全4年間の研究計画において、大岡昇平の戦後出発期の代表作品を軸にした研究を、神奈川近代文学館が所蔵している手稿類を含めて研究している。過去3年間において、3つの代表作『俘虜記』『武蔵野夫人』『野火』の原稿、構想ノートといった手稿類の調査と著作権継承者より許諾を受けての撮影とを行い、考察を論考にもまとめ始めている。とりわけ撮影については、現在可能なものについて、ほぼ終了している。最終年度の今年度において過去3年間の補遺を行い、本研究課題のまとめを行う予定である。よって、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては、当初計画通り、大岡昇平文学研究のうち、とりわけ戦後の作家的出発期の作品について、資料劣化が危惧されている草稿、構想ノート等手稿類の調査と考察を行ってきている。著作権継承者により、草稿類の影印出版、全文翻刻はかなわないが、撮影による細部に至るまでの調査が可能となったため、この方法により研究を行ってきている。作品/テクストを著作者までさかのぼって研究する場合にはプライバシーや著作権継承者の意向の問題は当然発生する尊重されるべきものであり、本件における上述の、出版は行わないが調査撮影と考察は進めるという計画とその遂行は、現在考えられる限り最良の対応であると考えられる。 よって、これまで行ってきた草稿類の調査と撮影を補足しつつ、考察を進展させていくという推進方策を今後も進めていく。
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