上代文学と生きた声の歌・説話との比較研究の成果として、共編著『歌の起源を探る 歌垣』を刊行した。そのなかで、日本や中国での歌文化についてのフィールドワークの成果を生かして「序論」「日本の歌掛け文化」「万葉贈答歌の世界」「あとがき」を執筆した。日本には歌を掛け合う文化が古代から近代まで受け継がれてきた。その文化のなかに万葉贈答歌も生み出されてきたことを明らかにし、歌の贈答の具体的な様相を声の歌との比較から解明した。従来、古代歌垣の掛け合いの歌から万葉歌が展開してきたと説かれてきたが、歌垣の歌と古代の宴の歌とは異なるものであり、万葉歌は宴の歌につながるものであるとした。論文「奄美・沖縄のシャーマニズムと呪言・呪詞の発生」は上代文学の発生という問題を究明するための研究意義を有するものである。シャーマン的宗教者の成巫過程などにおいてトランス状態のなかで音律ある聖なることばが生まれてくることを解明したものである。論文「民間説話はどう書かれたか-『神国愚童随筆』の場合-」は、近世における民間説話がどのように書かれたかを明らかにすることによって、上代説話がどのように書かれたかを究明する手がかりにしようとしたものである。こうした諸論文を通して、生きた声の歌・説話との比較研究による上代文学の歌・説話についての研究を推進した。
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