本研究は、各文庫に所蔵される中世宗教・文芸テキストの写本の発掘を通して、諸領域を横断しつつ、中世日本における<性と身体>の地平をきりひらくところにその目的がおかれた。まず研究の諸段階として、中世の宗教テキスト群の読解に供するための関連文献の収集につとめた。さらに、国文学研究資料館に赴き、関連マイクロ資料の調査・収集を行い、それらを順次パソコンにデータ化し、目録化及び索引作成を行い、また収集した資料群をすべてファイル化し、今後の研究のための基盤整備につとめた。 次に、中世身体論の重要な展開基盤となったのが『瑜祗経』注釈に関わる多数のテキスト群であることが判明したことをうけて、それらを多数所蔵する金沢文庫に赴き、写本類の調査収集に力を入れた。本研究応募の段階からこのテキスト群の調査の重要性は承知していたが、実際の調査をへて、多くの研究材料を得ることができたことは大きな成果であった。同時に、この調査のなかで、『瑜祗経』という経典解釈を通じて形成さける「愛染王法」と呼ばれる密教修法関連のテキスト群の発掘も行い、日本中世の<性と身体>を考察するうえで欠かせない資料となることを確信した。「研究の目的」にも記したように、日本中世における「身体論」が西欧中世におけるそれに比していまだ散発的な研究状況に甘んじているといわざるをえない要因は、13世紀から14世紀にわたって生成したこれら多数の宗教テキスト群のなかに埋もれる身体論的素材の発掘が十分になされていないことにあるが、その点を強く念頭において、以上の作業・研究がすすめられた。 以上を基盤として、その成果の一部を後掲の「研究成果」に記したよに2本の口頭発表とI本の論文にまとめることができた。
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