本研究は、三箇年にわたり各文庫に所蔵される中世宗教・文芸テキストの写本の発掘を通して、諸領域を横断しつつ、中世日本における性と身体の地平を切り拓くところにその目的を置いて続行してきた研究の最終年度にあたるものである。 本年度も引き続き、国文学研究資料館所蔵の関連マイクロ資料の調査・収集、金沢文庫所蔵テキストの調査・収集、高野山大学図書館所蔵テキストの調査・収集等を基軸に実施した。ただし本年度は前年度に調査不足であった『菩提心論』や『理趣経』関係の注釈テキストを重点的に収集した。また、前年度の研究によって、日本中世における性と身体の研究にとっては医書やその他雑書についても収集の必要があることが判明したので、そうしたテキストについても如上の文庫を中心に探索し、適宜収集を行った。なおまた、本研究で培った視点が全体として今後どのような意義を有することになるか、これまでの収集資料をもとに、これからの日本中世古典学の総体を視野にいれつつ包括的な論究をおこなった。また、とくに「東アジア」にわたる研究課題を具体化すべく、海外(韓国)文献の調査・複写収集にもつとめた。具体的には、本研究と同時並行して進行された科研B(研究代表者:千本英史)の課題に係る東国大学校図書館探訪の機会を利用し、同大学所蔵文献の調査・収集を実施した。その結果、本研究の中心テーマである宗教テキストをめぐる霊性・身体論的アプローチが、東アジアという視点からも有効であることを確認し、その実現への基盤をつくることができた。 なお、具体的な成果としては、口頭発表および共著書への寄稿という形でその一端を発表ずみであり、また全ての成果については、『中世日本の神話・文字・身体』と題して単著を準備中である。
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