本年度の研究成果は、大きく以下の三点に集約される。 (1)『有島武郎研究』13号(2010年9月)に論文「『文化生活』と吉野作造-朝鮮に関する評論をめぐって-」が掲載された。本論文では吉野作造に関する先行研究を踏まえた上で、雑誌『文化生活』における吉野の発言について考察した。吉野は『文化生活』の創刊号(大10年6月)から第3号(同年8月)にかけて、朝鮮を素材とした評論を掲載する。これらの評論には、吉野の植民地朝鮮に対する認識が反映されていると考えられる。 (2)『金沢大学国語国文』第36号(平成23年3月)に、「洪蘭坡「煩悩〓一夜」(「煩悩の一夜」)について」が掲載された。本論文は朝鮮語雑誌『現代』3号(大9年3月)に掲載された洪蘭坡の「煩悩〓一夜」について紹介したものである。洪蘭坡は「鳳仙花」を作曲した音楽家である。「鳳仙花」は、植民地支配への抵抗を象徴する歌として知られる。「煩悩〓一夜」は、「鳳仙花」が作曲されていた時期と重なる。この事は洪蘭坡と独立運動との関係を示唆している。 (3)2011年1月20日~21日にかけて石川県金沢市の四高記念文化交流館において共同研究会を行った。参加者は5名。日本から奥田浩司(石川工業高等専門学校)・梶谷崇(北海道工業大学)、韓国から宋錫源(慶煕大学)・孫知延(慶煕大学)、台湾から朱恵足(国立中興大学)が参加した。発表題目は「大正デモクラシーと朝鮮語雑誌『現代』-抵抗文化の形成と〈翻訳〉-」(奥田)、「韓国における帝国日本研究:現状と課題」(宋錫源)、「琉球・沖縄人のアイデンティティ形成史-文学テキストを中心に-」(孫知延)、「「世界」と植民地の間に:大正期における植民地台湾の世界想像」(朱恵足)である。なお梶谷は、南宮壁に関して、『太陽』に掲載された記事を中心に紹介した。
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