本年は、国内外における「融通大念佛狂言」・「無言仮面劇」関係等に関する実態調査・研究、並びに文献調査を主としたもので、大きな成果としては、以下の3つが挙げられる。 1.現在、我が国において「融通大念佛狂言」が執り行われているのは、京都の壬生寺(「壬生大念佛狂言・融通大念佛狂言」)を始め、同・引接寺(「千本ゑんま堂大念彿狂言」)、同・清涼寺(「嵯峨大念佛狂言」)、同・神泉苑(「神泉苑大念佛狂言」)、兵庫県尼崎市の大覚寺(「大覚寺壬生狂言」)、福井県小浜市の西方寺(「和久里壬生狂言・和久里融通大念佛狂言・壬生」)の6寺のみであり。この内、壬生寺の影響を受けて成立したものや、その指導下にあるものは神泉苑・大覚寺・西方寺の3寺であることなどが判明した。 2.和久里西方寺に現在伝存する9曲の内、「狐釣り」・「座頭の川渡り」・「腰祈り」の3曲は、現在の壬生大念佛狂言の番曲にはないものであるが、壬生寺に伝わる古記録には、「狐釣り」・「座頭の川渡り」の2曲の番曲名が見え、往古には上演されていたことを確認できたが、「腰祈り」は、壬生寺を始め、他の4寺にも見当たらないもので、「和久里独自の番曲であることが分かり、さらにこれは能狂言に見られる「腰祈り」とは異なり、老翁が老婆に変わり、しかも、この老婆が立小便をするなど他には無い特殊なものとなっていること等も判明した。 3.国内の立献で、和久里融通大念佛狂言に関わる「壬生狂言」の名が見えるものは、『古河嘉雄文書』(1816)が現在のところ最も古く、和久里での狂言関係の文献としては、15世紀初頭の『拾椎雑話』を始め、『稚狭考』、『蔭涼軒日録』等の関係記述を確認した。
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