本年度においてはまず、宮内庁書陵部御所本を活用した、万治四年(1661)禁裏焼失本の復元に関する研究がさらに進展したので、論文として公表した。また古今集の散佚写本に関しても、本文データベースの問題と絡めながら論文化した。 と同時に、天理大学附属天理図書館・神宮文庫・神戸市文書館・神戸市立中央図書館・蓬左文庫・ノートルダム清心女子大学図書館・住吉大社などにおいて、古今集のいわゆる藤原基俊本、源氏物語の紀州徳川家旧蔵本、尭孝法印集をはじめとする中古中世私家集、栄花物語・大鏡・今鏡・水鏡といった歴史物語、その他諸作品の散佚写本と、中古中世散佚歌集・散佚物語に関わる原本調査を実施した。結果、とりわけ源氏物語の紀州徳川家旧蔵本について、伝来と行方に関する明確な結論を得ることができた。また尭孝法印集の伝本調査の過程において、足利義教日次家集のツレの存在をも明らかにし得たので、ともに本研究の成果として来年度、学界に報告する予定である。なお学界未紹介の新撰髄脳付載未詳歌学書(天理図書館蔵)などを見いだすこともできたので、今後詳細な内容調査を行っていくこととしたい。さらに新出の、犬山城白帝文庫蔵手鑑の存在を突き止めることができたのも、収穫であった。 ほか宮内庁書陵部御所本・天理図書館本・尊経閣文庫本・北岡文庫本などについて、本研究の遂行のために必要な電子複写をも作成した。それらの分析・活用は、来年度以降、順次進めていく所存である。
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