平成24年度は本研究の最終年度となるため、研究の総まとめとして、野郎歌舞伎の演技・演出を明らかにする本『若衆たちの歌舞伎』の執筆を行い、粗原稿の50%を完成させた。この原稿の完成が半分となったのは、新たに重要資料である『大梁公日記」が出現したためで、この資料の研究を鈴木博子(帝塚山大学准教授)などと開始した。 上記『若衆たちの歌舞伎』の重要な要素を占める研究論文「『役者絵づくし』の研究ー諸本紹介・成立年代考証・象眼ー」を完成させ、『国文学研究資料館紀要』39号に掲載した。この論文は、本研究の核をなすもので50頁を越える大部の考察となった。とくに、本研究で発見に至った、シカゴ美術館蔵本『役者絵づくし』、関谷徳衞氏蔵本『役者絵づくし』、国文学研究資料館蔵本『役者絵づくし』の三本を比較研究することにより、浮世絵版画における現存最古の「象眼」を発見し報告することができたことは、学界に裨益するところ大であった。また、この発見は「風俗描写における現代性の重視」という歌舞伎の演技・演出の基本的な性格の解明につながるという指摘を行い、歌舞伎の本質解明を大きく進展させた。さらに初代団十郎の舞台姿を描いた二種類の絵は、初代団十郎の演技・演出を具体的に示すものであり、従来の団十郎像を大きく変更するものであるとの、研究者からの評価を受けた。 上記論文の最終データ確認と、新出資料『大梁公日記』の調査に時日を要したため、本年度予定していた、ジェノヴァ東洋美術館蔵とフランス国立図書館における『歌舞伎風俗図巻』と『としの花』(仮題)の調査は、拡大写真による研究に切り換えて実施した。また、佐渡市鳥越文庫、京都府立総合資料館、大阪府立中之島図書館など国内機関の調査は数回に及んで実施し、その成果を『若衆たちの歌舞伎』に取り入れた。
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