1650年頃まで(劇場閉鎖以前をひとつの区切りと考えた)の演劇作品における挿入歌について調査・研究した。具体的には、国立国会図書館や東京大学付属図書館が所蔵する英国韻文劇・散文劇データベースを手がかりに、挿入歌をもつ演劇作品の基礎データを作成したが、現時点でまだすべてを網羅できておらず、大英図書館の楽譜ライブラリーでの調査はまだ開始でさていない。 楽曲と挿入歌の歌詞を対応させたデータベースの作成も、現時点では途上であるが、基本的なフォーマットの煮詰めはほぼ完了しており、次年度はデータの蓄積と分析にとりかかれる予定。 音楽史関連の文献にあたることで、バラッドに同工異曲がひじょうにたくさん見られることがあらためて確認され、これをどう文化史的に説明するかという問題に直面している。これも次年度以降の課題としたい。ひとつの論点としては、リュート歌曲が宮廷から市民社会のレパートリーへと移行する際に、楽器の音量の小ささが障害となった可能性のように、演奏形態と聴衆の数・質の性格の変化が、演奏形態の変容を招き入れ、メロディのみが踏襲されつつもまったく異質の歌詞・演奏形態を与えることに、とりたてて躊躇した様子がないなど、同工異曲であることの「必然性」の定義を困難にする要因と、所定のメロディが醸し出す先行する歌曲の歌詞が、挿入歌に及ぼす「引用の影響」と考えられる要因との切り分けもまた、ひじょうに困難な問題であることが、データの重複をみることによって明らかになってきている。
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