広い研究課題のなかから、本年度は特にふたつのテーマをめぐって研究を実施した。 第一は、19世紀前半の詩人たちの詩作を確認することである。とくに、19世紀最初のベストセラー詩人というべき女性詩人Lydia Huntley Sigourneyと、しばしば「アメリカ詩の父」と称されるWilliam Cullen Bryantが、どのように先住インディアンを描いたかを検討した。たとえば、シガニーは1834年の"Indian Names"などによって、そしてブライアントは1832年の"The Disinterred Warrior'などによって、しばしばインディアンをうたっていた。それらは基本的に「消えゆく種族」としてインディアンに思いを馳せた作品だった。これは、たとえば西部を旅してインディアンを描いた画家George Catlinがその作品を「インディアン・ギャラリー」として巡回展示したのが1837年からであったことを考慮すれば注目に値する。詩人たちの典拠についてはさらに研究を重ねる必要がある。 第二として、Henly Wadsworth Longfellowの物語詩The Song of Hiawatha(1855)などによって「よきインディアン」と化したインディアン像が、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカに与えた影響を探った。とくに着目したのは、アメリカで活躍したカナダ出身の作家・画家Ernest Thompson Setonが1902年に設立した少年組織League of Woodcraft Indiansである。これはインディアンに倣って自然やアウトドア生活を学ぶ組織だった。ボーイスカウトを設立(1907)したイギリスのRobert Baden-Powellも、このシートンの運動を参考にしていた。18世紀の末に復活した「高貴なる蛮人」という理想像が、いわば「自然生活の達人」という形に変容したのである。
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