本年度は、まず第一に、前年度の継続として、カナダ出身の作家Ernest Thompson Setonが、大衆詩に歌われたインディアンの影響をどのように受けていたかを探った。Setonがインディアンに興味を抱き、その生活に倣った少年組織を設立(1902)、さらには半自伝的『ふたりの小さな野蛮人』(1903)を書いたことはよく知られている。しかし、今やほとんど忘れられている連作記事「寓話と森の神話」(1903-1904)を分析すると、そのような興味の背景には、詩人Henry Wadsworth Longfellowのベストセラー詩『ヒアワサの歌』(1855)の感化があることが明らかになった。シートンはリアリスティックな作家・画家ではあったが、その根底には、Longfellowがうたった空想的なインディアン像があり、その想像上の世界を、現実の細かな観察によって巧みに補っていたのである。 第二に、前年度からの課題として、19世紀の大衆詩人たちが利用した典拠資料を研究した。とくに、インディアン研究者Henry Rowe Schoolcraftの著作のうち、その集大成というべき大著『合衆国のインディアン部族に関する歴史的、統計的情報』(1851-57)を調査した。Longfellowが利用資料として言及しているこの稀覯書を検討してみると、これは政治的動機に基づく民族誌学的な研究であって、インディアンに伝わる説話など、ほんの付録的な一部を構成するに過ぎなかった。しかし、その第二巻には、Schoolcraftの以前の著作『アルジック研究』(1839)では言及されなかったHiawathaという英雄の伝説が紹介されていた。すなわちLongfellowは大著の中にこの伝説を見いだし、それを中心に様々な説話を加えていったのである。複数の部族の伝説を混淆させながらも、強弱格のリズムで統一することによって、アメリカ人の「祖先」の物語として再生させたのである。
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