本年度は本研究の2年目であり、昨年度に収集した資料の分析を行った。それらは演劇及び小説の一次資料であるが、その分析を基にして、ディケンズ、サッカレー、トロロプ、コリンズなど、主要なヴィクトリア朝小説家の作品と演劇との関連について、初年度に得られた知見の再検討を行った。当時の劇場の状況についても、大衆劇場から比較的高級な劇場までの幅広い資料の収集を行った。大衆的劇場・演芸の資料は、小説に比して非常に限られており、収集がかなり困難であった。一次資料の取得には限界があったが、二次資料等によって、劇場の実態をかなり明らかにすることができた。 電子化テクストの収集と分析も引き続き実施した。演劇論、小説論、文化論を主体に、刊行されている図書資料の収集と分析も継続して行った。さらに、演劇と小説というジャンルの特性に鑑み、ヴィクトリア朝に限定されることなく、17世紀から18世紀にかけての演劇、小説の資料も収集し、分析した。現代の批評理論を援用したヴィクトリア朝演劇と小説の相関関係についての理論構築のための基礎的な作業も継続して行った。 小説の大家たちに比して注目されることが少なかったブラッドン、デュ・モーリアなどの小説家、ギルバート、サリヴァンのサヴォイ・オペラなど分析も行った。その他、多数の無名あるいは匿名の作家の作品も可能なかぎり発掘したが、分析を進めるまでには至らなかった。本年度は、この時代の演劇と小説との相互作用の全体像を浮かび上がらせるという最終的な研究成果の達成のための準備的作業が大部分を占めたので、執筆論文は1本であった。刊行されるに至っていないが、16世紀以来の演劇と小説勃興との関係を研究した単著の原稿をほぼ脱稿した。本研究の成果はこの単著にも一部組み込まれる予定である。
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