本研究を進めるにあたり不可欠である湖水地方旅行や地方史に関連する図書や、共和主義の伝統に関連する図書の収集に努めた。その結果、The Beauties of England and Walesシリーズなどを始めとする、本研究の基礎資料となる多くの貴重本やそのコピーを購入することができた。平成21年度は主として、こうした資料を読むことに多くの時間をかけた。そこから今後の課題も含む次のような点が明らかになってきた。 古代ローマの共和主義は、ルネサンスのイタリアをへて17世紀にイギリスにもたらされたが、それが浸透する過程で農民に対する認識どのように反映されたかを、研究書から概括的知識を得るとともに、ジェイムズ・トムソンなどの18世紀の代表的文人にあたりながら調査することで、農民像形成に政治的立場も関わっていることが確認できた。 18世紀から19世紀にかけての旅行書や歴史書、地誌書、農業書などから私が収集した農民像に関する相当程度のデータでは、同じ地域の農民を描写したもののなかにも、かなり大きな差異のある事例が認められた。この差異には記述者の性格や職業などとともに政治信条も反映されていると考えられるので、農民像の特質とともに記述者についても調査を進めていきたい。 以上と並行して、ワーズワスの湖水地方の農民に対する意識の変化を年代順に整理中である。彼の政治や社会に対する考えも同時に調査することで、これら二つの分野のあいだに関連性があるように感じ始めている。
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