平成22年度は、主として二つの視点から研究を進め、以下のような成果を得た。 (1)共和主義は市民の自主的な公共活動への参加を前提とするので、市民は経済的に独立した自営農民であることが理想とされた。本研究では、こうした共和主義の理念が、18世紀後半のイギリスにおいで、農業革命などがもたらした農村衰退について考祭する際の、思考枠として使用されていたことを確認した。この時期には、囲い込みの進展や道路網の整備などにより、自営農民(ヨーマン)が没落したが、この農民層が共和国市民と同一視されたのである。この同一視は、ゴールドスミスの『廃村』(1770)やペナントの『1769年のスコットランド旅行記』(1771)、サウジーの『イングランドからの手紙』(1807)など、文学や歴史、旅行記や地誌書などの分野で、相当数の著作に浸透していた。さらに、そうした著作のリストを作成し、この同一視がどの程度普及していたのかを探るとともに、自営農没落の理由を自己の物欲と社会のどちらに帰しているかの調査もした。どちらに帰するかは、作者の共和主義に対する姿勢や社会批判を反映していると考えられるからである。 (2)ワーズワスが読んだと思われる著作を調査し、彼の共和主義的農民像の源流の発見に努めた。また、彼の作品や書簡から、自営農民(ステイツマン)に関する記述を抽出し、農民に対する彼の姿勢の変化を調べた。それにより、ワーズワスの湖水地方の農民をめぐる発言が、社会の共和主義に対する姿勢とある程度運動している感服を得た。
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