過去二年間の研究によって得られた、 1. 19世紀ユートピアに関する理論的な整序(希望の原理の観点から)、 2. 1次資料の蒐集・整理(従来等閑視されてきたユートピアテクスト群)、 3 .社会・歴史的な視点からの検討(主にイギリス帝国主義の観点) 4. 具体的なテクスト分析(2. の資料の精読) 5. 学際的な観点からの検討(政治、経済的側面からの検討)、を踏まえた上で、本年度は、〈移動と想像力〉という本研究の主要な観点からの研究の総括を行い、遠距離の旅行が多くの人にとって物理的に可能になりつつあった時代における主体および大衆の想像力の変貌の過程を辿った。 具体的には、19世紀をユートピアがディストピアに変貌する過程として捉える従来のユートピア文学・思想史が不十分であることを以下の2点において明らかにした : (1)文学におけるキャノン以外のテクストにはこの時代にも十分にユートピア的なものが存在していた。(2)ユートピア思想においても、まさに、この時代こそ、ブロッホへといたる希望の原理としてのユートピア思想が登場するさまざまな契機が存在していた。 以上のような総括を踏まえ、現在、個別のテクストに関する論を準備しているところである。その際、とりわけ、(A)(原)サイエンス・フィクションのテクストの登場過程とそこにおけるユートピア思想の多様性、(B)進化論の多様性とその非優生学的な可能性の変遷を扱ったテクスト群、という二つの方向でテクスト分析を進めている。
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