平成21年度においては、ニューイングランド植民統治に関する一次資料を検証し、当該植民地建設の目的、ヴィジョンを再確認することが第一目標であった。その結果、ヴァージニア植民地と比較して、激しい宗教的情熱による理想の「神の国」の実現を目的とするピューリタニズムの姿が改めて浮かび上がることになった。そして、その宗教的情熱は時代の変遷を通じて衰退することがあっても、17世紀の植民地社会に色濃く影響を与え続けていることが垣間見えた。このピューリタンの宗教的情熱の与える政治的文化的遣産について、当初の研究計画では、プリマス植民地、マサチューセッツ植民地などのニューイングランドの各植民地において、いささか濃淡があるのではないかとの仮説を提起してみた。例えば、著名な歴史家であるSamuel E.Morisonは他と比較してプリマスの植民地の自由度を強調している。このようなピューリタン信仰のそれぞれの植民地における微妙な差異を読み取っていく作業は、ピューリタニズムとは強権的な神政政治のイデオロギーにすぎないとする一面的な理解をくつがえし、ピューリタニズムの新たな側面、その現代的意義を明らかにしていくことにつながると思われる。 膨大な先行研究のなかで、ニューイングランドの植民地の宗教性を強調したものが数多い。これまでは省みられることのなかった説教を通じて、17世紀以降も継続する真剣な信仰の探求という観点からニューイングランドの精神性の全体像を探った研究を著したアメリカ合衆国イェール大学神学部のHarry S.Stout教授とコンタクトをとることに成功した。本年度はStout教授にも直接お会いして、上記のような決して一面的ではないと思われるピューリタニズムの諸相を、1)信仰の自由の解釈について、2)大英帝国の臣民たる自覚について、3)タウンミーティングに見られる民主的政治運営について、4)インディアンとの関係についての視角から研究する。
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