本研究の目的は、キャザーとヘミングウェイのテクストにおける人種、民族、地域性を中心に、セクシュアリティとの関連においてそれらが欧米白人中産階級の視点からどのように解釈され、クローゼットの形成と物語構造に関わっているのかを明らかにすることである。先行研究に適宜批判を加えながら、人種、民族、地域性、セクシュアリティといった異なる次元の諸問題を重層的に読み解いていくための方法を導き出すとともに、物語で中心的な位置を占める白人中産階級の視点が、その他の人種、民族、地域をどのようにセクシュアリティに関連づけているのかをテクスト分析を行うことによって解き明かしていくものである。 平成23年度はクィア理論を基盤に、ポスト・アウティング批評を行う為の方法論を構築し、ヘミングウェイの短編に対してその実践を行った。さらに、アフリカとアフリカ人に焦点をあて、それらがヘミングウェイのテクストの中でどのように描写されているかを、The Garden of edenとそのオリジナル原稿、Under Kilimanjaro、Green Hills of Africaとそのオリジナル原稿を題材に検証した。本研究の意義は、セクシュアリティを扱う際には、セクシュアリティを単に病理と呼んだり読者自身の欲望を投影したりする危険が伴うことを指摘するとともに、テクストの重層構造に注目するアプローチが、文学におけるセクシュアリティの分析に極めて有効であることを示したことである。
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