研究概要 |
昨年度に引き続きニューヨーク公立図書館、ハーバード大学、コロンビア大学等の大学図書館において文献収集につとめ、Mary Chellis, Lucius M.Sargentら比較的知名度の低い作家の作品、および各種禁酒団体により発行されたパンフレットなどの貴重な文献のコピーを多数収集できたことが第一の収穫である。また、パンシルバニア大学デビッド・エスピー米文学教授やテキサス州立大学カール・ジャクソン歴史学教授など、この分野の専門家と意見交換をする機会を通じ、今後の研究を推進するうえで貴重な示唆が得られたことも大きい。 これまで収集してきたT・S・アーサーの文献の分析にもとづく研究、とりわけ彼の後期禁酒小説という未開拓の対象について研究を進め、その成果を論文の形で発表した。その中で、さまざまな意匠をこらしながら、アーサーが説諭と強制という禁酒をめぐる中心主題に関し一貫した関心を抱き、その表現方法を試行錯誤していたことが詳細に分析されている。禁酒小説の代表作家であるアーサーの研究がほぼ一段落したことで、今後はそれを準拠枠に他の禁酒小説家の分析が進むものと思われ、その意味でも今年度の成果は大きい。 今後は、もう一人の重要な禁酒作家、サージェントに焦点をずらし、彼の一連の禁酒小説の分析を推進する計画である。同時にすでに分析の終わったハリエット・ストウや、メアリ・チェリスら女性の手になる禁酒小説と比較しながらジェンダーの視点もまじえ、19世紀アメリカで支配的な解放の言説のレトリック解明を図りたいと考えている。
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