平成22年度は、21年度に引き続き、本研究の目的にそって、さまざまな著書、論文などを収集、分析し、あわせて文献の複写、必要箇所のデジタル化など基礎作業をおこなった。とくにチェンバレンの『日本事物誌』の「日本人」(Japanese People)の版による本文の異同を調査し、チェンバレンの日本人論および日本観の成立過程と、ほかのジャパノロジストとの関係を明らかにする基礎作業を行った。また、以下の英文論文を公刊した。本稿は基本的には、昨年度公刊した、平川祐弘編『講座小泉八雲IIハーンの文学世界』所収「転生する女たち-鴻斎・ハーン・漱石再論」(p.102-126)、2009(平成21)年11月、新曜社の英語版であるが、たんなる英訳ではなく、多くの新資料を追加し、海外向けに論述の視点をあらたにした、別論文である。本稿においては、転生という東洋的主題が、漢文(儒教)、英文(ロマン主義とオリエンタリズム)、近代日本語(近代日本における個人主義)というように、メディアと思想が変化することで、いかに物語そのものが変容するかを明らかにし、オリエンタリズムの新しい研究視座を提供した。また、ハーンのオリエンタリズムの産物である怪談「雪女」が、いかなる文化的思想的な背景のもとに、日本の伝統的民話として受容されたかをめぐる基礎調査を行った。この成果は来年度、単行本として刊行予定である。
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