研究概要 |
エリザベス朝の学者ジョン・ディーJohn Dee(1527-1608)については、彼のあまりに複雑で多面的な活動のゆえに、いまだに評価が揺れ続けて、定まっていない。 1960年代から70年代にかけては、イギリス・ルネッサンス期の科学や哲学におけるディーの重要性が強調され、知的巨人、万能人だという評価がいったん定まった感があった。しかし、80年代後半以降、周辺領域の研究が進捗するにつれて、宗教、魔術、科学、政治、文学が渾然一体となっていた時代においてディーが占めていた位置については逆に意見が分かれ、決定的な研究は現在にいたるまで出現していないというのが現状である。 ジョン・ディー研究において大きな問題となるのは、彼の遺した手稿群が、その内容において難解をきわめるだけでなく、いまだ未刊行のものがかなり存在しており、さらに翻字刊行されている場合も、校訂を経ていないものが少なくなく、テクストの信頼性に乏しいことであろう。 本研究は、大英図書館British Libraryが所蔵するディーの手稿群を、マイクロフィルム及び電子図像ファイルのかたちで入手し、厳密なジョン・ディー研究の基礎固めをおこなうことを目標としている。 本研究の対象として特に重要であったのは、MS Sloane,3188(Mysteriorum libri[1581-3])である。この一次資料の解読、解析によって、本年度においては、ディーが協力者のエドワード・ケリーEdward Kelley(1555-1597?)と共同でおこなった初期のscrying作業に関して、たとえば、「49の聖なる天使」の名前の開示法や、「神の印章(Sigilum dei)」の詳細などを、かなりの程度まで明らかにすることができた。
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